価値観の断絶と人類の未来

【要約】

本稿では、言葉の間に潜む「価値観の違い」が、人間関係における誤解や孤独、さらには民族・宗教・国家間の対立を引き起こす過程を考察する。

価値観の断絶が避けがたい現実である以上、人類の未来において共存を可能にするためには、生物の多様性を尊重する認識を土台とした教育の強化が不可欠であることを提言する。

行間を埋めるもの──それは互いの価値観である

この発想は、自らの環境・体験が生み出したものである。が、それは常識の異なる溝による人類の数々の悲劇から見ればほんの微々たるものである。

言葉と言葉の間には、それぞれが各々が当然と信じる「常識」が各々に潜んでいる。このため、意思疎通の土台である行間は、ときに平坦であり、ときに深い谷となる。価値観によって、その溝の深さは異なる。溝が浅ければ、語らずとも通じ合えるが、深ければ、たとえ言葉を尽くしても断絶は埋め難い。努力によって浅くできる場合もあるが、性格や育った環境など、多くの要素が絡み合うため、必ずしも容易ではない。

この溝を橋渡しするもの──それが無言の「価値観」である。

価値観の多様性と孤独

生物の多様性が自然界に無数の差異をもたらすように、人間社会においても価値観は多様だ。この違いが、しばしば誤解を生み、孤独をもたらす。誤解も孤独も、人間にとってある種「普通」の状態なのかもしれない。

民族・宗教・国家へと広がる価値観の違い

視点を広げれば、民族にも固有の価値観があり、それはやがて宗教という形で結晶し、国という単位にも影響を与える。同じ言葉を用いていても、行間の解釈の違いによって、全く異なる意味に受け取られることがある。そこに生まれる感情のズレは、時に修復不能な亀裂を生む。

戦争は避けがたいのか

結局のところ、こうした価値観の違いが根底にある限り、戦争は人類にとって避けがたい運命なのかもしれない──そんな想いを抱く。

共存への道──教育に求められる役割

だからこそ、人類の共存には、生物の多様性を尊重する認識を理解のベースに据え、教育においてもこれを最大限に強化していく必要があるだろう。

具体例として、国際バカロレア(IB)に見られるような、国境や文化を越えて共通理解を育てる教育モデルが参考になる。冷戦期に国際平和の必要性から生まれたこのプログラムは、今日においても、価値観の断絶を乗り越える力を育成する重要な試みである。日本でも導入が進みつつあり、多様性を尊重する社会形成の鍵となりうるだろう。250427記

関連情報

【追想】

国際バカロレア(IB)の歴史と理念

誕生の背景

  • 国際バカロレア(IB)は、1968年、スイス・ジュネーブで正式に設立されました。
  • 背景には冷戦時代(1947〜1991)という、世界が東西に分断され、対立と不信感が渦巻いていた時代状況があります。
  • そのなかで、「国家やイデオロギーを越えて、共通の価値観や理解を育む教育が必要だ」という強い問題意識がありました。

とくに、外交官や国際機関の職員の子供たちは、親の仕事で世界各地を移動するため、どこの国でも通用する一貫した教育課程が必要だったのです。

つまり、IBは

  • 国を超えた教育の標準化
  • 異文化理解と国際平和のための人材育成という明確な使命をもって生まれました。

理念の中心:

「違いを越えて共に生きる力(International-mindedness)」を持つ人間を育てる


日本におけるIB教育の現状

導入状況

  • 日本では、文部科学省が2013年ごろから「スーパーグローバルハイスクール構想」と並行して、IB導入を積極的に支援し始めました。
  • 2025年現在、約70校以上(PYP, MYP, DP含む)がIB認定校となっています。
    • 一条校(日本の学校教育法に基づく普通の学校)でIBを導入する試みも進められています。
    • 英語だけでなく、日本語によるIB教育(Japanese DP)も整備されています。

日本での課題

  • カリキュラムが非常に高度なため、教員の養成やカリキュラム対応が難しい。
  • 日本の伝統的な「暗記中心型教育」とは発想が異なるため、広く普及させるには時間がかかる。
  • 大学入試改革との連動も求められている(IB生向けの特別入試を実施する大学も増えてきたが、まだ一部)。

【補足説明】

( )内のローマ字表記はそれぞれ、IB(国際バカロレア)教育プログラムの種類を表しています。簡単に説明すると

  • PYP(Primary Years Programme)
    小学校段階(3歳〜12歳対象)のプログラム。探究型学習を重視します。
  • MYP(Middle Years Programme)
    中学校段階(11歳〜16歳対象)のプログラム。教科横断型の思考力育成を目指します。
  • DP(Diploma Programme)
    高校段階(16歳〜19歳対象)のプログラム。大学進学を見据えた高度な学習カリキュラムです。

それぞれ、年齢層や教育目標に合わせて設計されています。

✳️続編でIBをもう少し深く掘り下げた情報でアップする予定。