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日本企業「海外で稼ぐ」が生きる道 日鉄、貫いた米巨額投資の決断
上記、日経新聞主要記事を本稿の題材としています。

はじめに
日本は「世界一の債権国」と呼ばれ、2024年度には海外からの収益が30兆円を突破した。しかし、この豊かさが国内で実感されていないのはなぜか?いま必要なのは、数字の美しさではなく、富の流れの再設計である。
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■ 海外で稼ぐ力は健在。しかし…
財務省の国際収支統計によれば、2024年度の日本の海外収益はついに30兆円を超えた。
稼ぎ頭は自動車産業を筆頭とする製造業であり、今後は日鉄によるM&A戦略などがこの流れをさらに拡大する見込みである。
この数字だけを見れば、「日本はまだまだ強い」と感じられるかもしれない。
しかし、現実の国民生活はどうだろうか。
物価は上がり、賃金は横ばい。税負担は増し、年金や医療制度は不安を抱えたままだ。
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■ GDPに含まれない「稼ぎ」とは何か
問題の一端は、これらの海外収益が国内総生産(GDP)に計上されない(*1)点にある。
企業が海外で得た利潤は、本社所在地が日本であっても、現地法人の利益として扱われることが多く、国内に直接影響を及ぼしにくい構造となっている。
つまり、日本は「稼いではいるが、潤ってはいない」状態にある。
この現象は、企業のグローバル化が進む一方で、国内への利益還元メカニズムが十分に構築されていないことを意味している。
注記 (*1)例:トヨタのアメリカ工場で上がった利益 はアメリカのGDPに計上。その利益が日本の親会社に送金された場合 には、日本のGNIに反映されるが、GDPには反映されない。
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■ 成長なき富の蓄積、それは誰のものか
現代の日本は、「国が貧しい」のではなく「人々が豊かにならない国」になってしまったのではないか。
30兆円もの海外利益があっても、それが国民の手取りや地域の雇用、地方再生、次世代への投資に活かされないのならば、それは“数字のトリック”でしかない。
金融・税制・社会保障など、あらゆる政策の基軸が「グローバル企業の利益最大化」に合わせられた結果、庶民の生活とは乖離した経済成長が進んできた。
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■ 必要なのは、稼ぎの国内循環装置
いま日本に必要なのは、「どう稼ぐか」以上に、「稼いだ金をどう使うか」の議論である。
・海外収益を原資とした国内スタートアップ投資
・地方への利益還流を促す税制改革
・年金・教育・医療への持続的財源としての活用
これらの政策転換こそが、真の意味での成長戦略である。
いくら稼いでも、それが使われなければ社会は変わらない。30兆円が市場で眠り続けるなら、国民にとって意味はない。
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■ 「数字」ではなく「暮らし」を豊かに
経済の最大の目的は、人々の生活の質を高めることである。
いま、30兆円の海外収益を誇るこの国で、子どもたちが貧困に苦しみ、高齢者が医療費を恐れているのなら、それは“成長”ではなく“錯覚”である。
数字の美しさに酔ってはならない。問うべきは、「誰のための成長か」である。
2025/6/20 11:30 山手線車内にて