はじめに
最近、YouTube動画で「海外ではコレステロールを基本的に測らない」という医師対談を耳にした。この情報は現代の日本社会の過剰医療についてしばしば異論を唱える和田秀樹医師と東海大学名誉教授の大櫛陽一氏の対談から得た。これは一見驚く発言に思えるが、背景を調べた限り、日本と海外の健診制度の発想の違いが浮かび上がってくる。
日本の健診制度の特徴
日本では企業や自治体が主導して「全員一律の健康診断」が制度化されている。
労働安全衛生法による企業健診、そして40歳以上を対象とする特定健診(いわゆるメタボ健診)が代表例である。ここでは血液検査が必須とされ、総コレステロール、LDL、HDL、中性脂肪などが毎年測定される。
この背景には、かつて日本人の死因の上位を占めた脳卒中や心筋梗塞を早期に発見・予防する狙いがあった。国民皆保険と相まって、全員を対象にしたスクリーニングが可能になったのである。
海外の健診制度との違い
一方、欧米諸国では「全員一律の年1回健診」という制度は存在しない。
医療は基本的に「必要な人がかかりつけ医にかかるもの」と位置づけられている。血液検査も医師の判断や年齢、心疾患リスクに応じて実施される。
米国の例(USPSTF;米国予防医学作業部会 ※予防接種以外)
- 男性35歳以上、女性45歳以上でリスク因子のある場合に測定を推奨
- 若年者でも肥満・糖尿病・家族歴などがあれば測定対象
- 頻度は「数年に一度」で十分とされる
英国の例(NHS ‖ イギリスの国民医療制度)
- 40歳以上を対象に「Health Check」を5年ごとに実施
- 心血管リスク評価の一環としてコレステロールを測定
このように海外では「リスクに応じて、数年ごとに測定」という方式が一般的である。
毎年測定する意義と限界
コレステロール値は短期間で大きく変動しにくいため、毎年測っても結果がほとんど変わらない場合が多い。
科学的エビデンスとしても、「毎年全員が測定すべき」という根拠は乏しい。
むしろ過剰診断や過剰投薬、不要な不安を生むリスクがある。
しかし、日本の制度には別の利点もある。全員が毎年データを得ることで、自らの生活習慣を振り返るきっかけになり、また国家として国民の健康データを蓄積できるという公衆衛生上の意義がある。
まとめ
「海外ではコレステロールを測らない」という表現は誤解である。正確には、海外ではリスクに応じて数年ごとに測定し、日本だけが例外的に毎年全員を対象にしているという構図である。
毎年の測定が必ずしも科学的に有効とは限らないが、日本型健診は「生活習慣改善への動機づけ」と「国民全体の早期発見体制」という意味で独自の価値を作り上げている。
リサーチ日時 2025/9/17