校正中 778 08 16
“借金”と“お金づくり”の違いを見抜くことが、希望ある財政議論への第一歩。
家計でいえば、「借金」と「自分でお金を刷る」の違いは明白です。借金には返済義務がありますが、自分でお金を刷れば、そもそも返す必要はありません。
ところが、国の財政においてはこの違いがしばしば見落とされます。「赤字国債」も「通貨発行」も、“政府が支出するための手段”として語られがちですが、両者の本質はまったく異なるのです。
■ 赤字国債とは?──将来の税金で返す「借金」
赤字国債は、政府が税収では足りない分をまかなうために発行する国債です。言い換えれば、「今はお金が足りないから、とりあえず借りておこう」というもの。将来的には返済が必要です。(と言っても、国は刷れるわけですから返せなくなり破綻ということはあり得ないのは自明です。)
借金ですから利子も付きます。そして、償還(返済)期限もあります。よく「次世代へのツケ」と表現されるのは、この赤字国債のことを指しています。
■ 通貨発行とは?──信用にもとづく「お金づくり」
これに対して「通貨発行」は、中央銀行(日本では日本銀行)が新たにお金を創り出すことです。こちらには返済義務はなく、政府が「通貨の発行権(通貨主権)」を持っている限り、必要に応じて行える手段です。
現実には、政府が日銀に国債を引き受けさせることで、間接的に「通貨発行による財源調達」が実現しているケースもあります。これが「財政ファイナンス」と呼ばれるものです。
■ 似て非なる「財源」の手段
比較項目 | 赤字国債 | 通貨発行 |
本質 | 借金(返済義務あり) | 新たな貨幣の創出(返済不要) |
調達先 | 民間金融機関・市場 | 日本銀行(中央銀行) |
利子の有無* | あり | なし(直接発行なら) |
リスク | 将来の負担・利払い | インフレ(供給超過時) |
(*)利息の有無⇒最後尾に別項として記述。
■ 現代貨幣理論(MMT)の視点では
MMT(現代貨幣理論)では、通貨発行を「政府の支出能力そのもの」と見なします。つまり、政府は税金や国債発行によって“お金を集めてから”支出するのではなく、“先に支出してから”後で税や国債で調整すればよい、という立場です。
したがって、MMTの立場では赤字国債は「帳簿上の記録(一時的な借用書)」であって、通貨発行が本質的な支出手段とされます。たとえば、政府がレストランの食事代を「ツケで払う」のが赤字国債。でも、実は政府は自分でお金を刷れるので、あとから支払えば済みます。赤字国債はただのツケの記録。実際の支払いは“通貨発行という手段”にある。それがMMTの立場です。
■ なので「国の借金=家計の借金」ではない
「赤字だから国も節約しないと」といった家計にたとえる論法は、単純すぎます。私たちはお金は刷れませんが、政府はそれができる存在です。よって、国の財政を論じるときは「赤字国債」と「通貨発行」の違いを見極めることが重要です。
■ まとめ:見えにくい「通貨主権」を意識しよう
赤字国債は「借金」であり、通貨発行は「創造(お札を生み出す=刷る)」です。メディアの報道ではあまり論じられませんが、この国が「貨幣を発行できる」という通貨主権に目を向けてみると、これからの社会の選択肢が変わって見えるかもしれません。
【理解のために】
通貨発行とは?──“信用”によって生まれる新しいお金
- 中央銀行の役割とは
- 返済不要な支出手段としての通貨発行権
- インフレとの関係を理解する
なぜ違いが見えにくいのか?──形式と実態の分離
- 政府と日銀の関係はどうなっているか
- 「赤字国債を日銀が買う」(本ブログの注釈ブロック参照)ということは?
MMTの視点から読み解く──政府支出の本質とは?
- 税と国債は調整手段であり、財源と異なる(次回詳述予定)
- 「通貨主権」とは
赤字=悪ではない。未来への投資と財政の使命
- 教育、子育て支援、高齢者福祉など。
- 人間の暮らしを中心にした財政の必要性。
数字の奥にある「価値」と「選択」
- 「財政破綻論」への冷静な視点(通貨主権国に財政破綻は無いなど)と判断を持とう
- 政策選択の“軸”は恐れか希望か(恐れて何もしない道を選んでいないか。何もしなければ右肩下がりになってゆくのは自然法則では無いか)?
【次回予告】
税金は本当に「財源」なのか?──税の本質に迫る
次回は、現代貨幣理論(MMT)をふまえた「税の役割」について掘り下げます。「税金は財源だ」という常識の裏には、実はとても深い論点があります。両論あるなか、可能な限り公平な視点で論じてゆきたい。
- 税はなぜ必要なのか?
- 税がなくても政府支出ができるなら、なぜ税を取るのか?
- 税金は「財源」か?それとも「統制手段」か?
こうした視点を持つことで、いまの税制や格差問題、さらにはベーシックインカムの議論にも新しい光が差し込むことでしょう。
[注記*]利息の有無の補足説明
通貨発行で「利息が発生する場合」としない場合があります。違いは「どういう経路で通貨が供給されたか」によります。以下に概要を示します。
■ ① 直接通貨発行(=利息なし)
たとえば、政府が日銀に国債を直接引き受けさせて、その代金で支出するような場合(理論上の「直接通貨発行」)は、
• 政府が日銀に借りる形になるが、
• 日銀が政府の一部とみなされるため、
• 利息を払っても、日銀から政府に戻る(※日銀の利益は国庫に納付される)
つまり、実質的には利息の負担がない、と考えられます。
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■ ② 市中(民間)銀行を経由した通貨発行(=利息あり)
現実には、財政法第5条により「政府は日銀に国債を直接引き受けさせてはいけない」とされています。そのため、通常は次のようなプロセスになります:
1. 政府が国債を発行(=赤字国債)
2. 民間金融機関や投資家が購入
3. 日銀が市場でその国債を買い取る(=買いオペ)
このプロセスでは、政府はまず民間から借金をしているので、利息(国債の利払い)が発生します。
たとえその国債を最終的に日銀が保有しても、日銀の帳簿上には「政府が支払う利子」が計上されます。
ただし、この利子分も最終的には日銀の利益として政府に戻るので、実質的な利払い負担は限定的です。
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補足:
• インフレ懸念(*1)があるため、日本では直接通貨発行は原則禁止。
• それでも、実質的には日銀による国債購入(量的緩和)が「通貨発行」として機能している面があります。
(*1)インフレ懸念は、通貨発行をめぐる議論において常に重要な論点となってきた。確かに、無制限な通貨発行はインフレを招く危険があるという主張は、基本的な経済原則に沿ったものであり、否定しがたい。しかし、国民的な合意形成のもと、慎重かつ明確な目的を持って実施される通貨発行であれば、過度なインフレを引き起こすことはないと考える。
制度設計においては、人間の性善説・性悪説の両面を想定し、安全性と透明性を担保する仕組みが不可欠である。たとえば、政策の実施過程を国民に可視化し、政治資金の透明化や闇献金の防止策を法制度として整えることが求められる。
社会システムの整備は常に試行錯誤の過程であるが、それをもって通貨発行を否定するのではなく、制度の進化として前向きに捉えるべきである。健全な財政運営と民主的な合意形成の両立こそが、持続可能な経済社会の礎となる。
実際、かつて政府が全国民に一律10万円を支給した際にも、目立ったインフレは生じませんでした。それどころか、当時の経済状況から見ても、購買力を下支えする適切な施策であったと言えるでしょう。
なお、年率2〜3%程度のインフレは、経済の健全な成長を示すものとしてむしろ望ましいとされており、政府や日銀もその水準を目標として公表しています。
もちろん、戦時のような非常時には、民意が無視され、際限のない通貨発行が行われる危険もあります。そうした例外的な状況を一般化して通貨発行を恐れるべきではありません。
むしろ、「インフレの恐れ」を過度に強調するあまり、必要な場面で通貨を供給できなかったことが、いわゆる“失われた30年”を招いた一因であると言えるのではないでしょうか。
注釈
「赤字国債を日銀が買う」とは
簡単に言うと、
政府が発行した借金(赤字国債)を、日本銀行(中央銀行)が買い取ることです。
これをもう少し丁寧に説明すると、以下のようになります。
1. 赤字国債とは?
赤字国債とは、政府の支出が税収を上回るとき、その差額(財政赤字)を埋めるために発行する国債のことです。言い換えると、国の「赤字の穴埋め」のための借金です。
2. 日銀が買うとはどういうことか?
政府が国債を発行すると、通常は銀行や保険会社などの民間が買いますが、日本銀行がこれを金融市場から買い取る場合があります。
これを「国債の買いオペ(公開市場操作)」と呼びます。
3. なぜ日銀が国債を買うのか?
主な目的は、
- 市場にお金(マネー)を供給する(金融緩和)
- 金利を低く抑える
- デフレからの脱却を図る
などです。つまり、日銀が国債を買うことで、間接的に政府支出を支える効果があります。
4. 通貨発行との関係
日銀が国債を買うと、その代金を銀行に支払うため、新たにお金を作り出す(通貨発行)ことになります。つまり、これは政府が支出し、日銀がそれを支える形で「お金を新しく創る」行為です。
5. 問題点と議論
このような構図は、「財政ファイナンス(中央銀行による政府の資金調達)」と呼ばれ、財政規律の緩みやインフレへの懸念もあります。
ただし、日本は長年にわたり、日銀が大量の国債を保有してきたにもかかわらず、大きなインフレには至っていないという現実もあります。
まとめ:
「赤字国債を日銀が買う」とは、政府の赤字を埋めるために発行された国債を、日銀が市場を通じて買い取ることで、結果として通貨が発行され、政府支出が間接的に支えられるということです。