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シリーズ第5回目は前回までのMMT、財政神話の議論を踏まえ、今回は「小さな政府」の問題と公共サービスの実態に焦点を当てます。
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【シリーズ第5回】

「縮む政府」で何が失われたのか?──公共サービスと国家の役割を問い直す
財政赤字への懸念、緊縮財政、そして「小さな政府」論。
これらの流れの中で、日本では公務員の数が削られ、公共投資が減らされ、行政サービスの現場が疲弊してきました。すでに社会問題化している公務員に代わる派遣労働者の増加など――
今回は、「政府の役割」を改めて見直すことを通じて、何が失われ、そして何を取り戻すべきかを考えてみます。
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公共サービスとは“コスト”なのか?
財政の議論になると、よく聞かれるのが「税金の無駄遣い」「公務員は多すぎる」「行政の肥大化はよくない」といった言葉です。これというのも、誤った思想が大衆に染み込んでしまったことによる発想です。
しかし、公務員の仕事とは本来、
- 社会保障(年金、医療、介護)の執行
- 教育、消防、防災、インフラ管理
- 地域経済の支援や環境政策の推進
といった大衆市場では代替できない公共的なサービスを担っています。
それを“無駄”と見なして縮小してきたことが、私たちの社会にどんな影響を与えたのでしょうか。
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公務員数の推移と「現場の限界」
総務省の統計によれば、日本の公務員数(人口比)はOECD諸国の中でも最低水準です
- 学校では教員が足りず、一人ひとりに向き合えない
- 保健所はコロナ禍で人員不足に陥り、行政が機能不全に
- 自治体の職員が減り、住民サービスや災害対応が遅れる
「無駄を削減」と言いながら、必要な人材と機能までも削り続けた結果、現場が疲弊し、住民の安全と暮らしが脅かされているのが現実です。
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「効率化」の名のもとに失われた“余裕”
政府はたびたび「行政の効率化」や「スリム化」を進めてきましたが、その過程で切り捨てられてきたのは“余裕”や“備え”です。
- 介護現場では人手不足が慢性化
- 教育現場では非正規教員の比率が増大
- 公共インフラは老朽化してもメンテナンス予算が回らない
これらはすべて、「効率」を優先するあまり、“信頼”と“安全”を犠牲にしてきた結果です。
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MMT的視点:政府支出は「投資」である
現代貨幣理論(MMT)の立場では、政府支出は単なる「コスト」ではなく、「人々の生活と未来への投資」です。
- 教育への支出は人材育成と将来の生産力向上につながる
- 医療・介護への支出は国民の健康と社会安定の基盤となる
- 公共インフラへの支出は災害への備えと経済活動を支える
つまり、公共サービスは“社会のインフラ”そのものであり、長期的には民間経済の土台を支える存在なのです。
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小さな政府の行きつく先とは?
「政府の役割を小さく」という流れが進むと、最終的にはこうなります
- お金持ちだけが医療・教育を受けられる
- 災害時も自力で何とかするしかない
- 社会保障は“自己責任”に置き換わる
これは私たちの望ましい社会の姿なのでしょうか?
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結び:公共という言葉を、もう一度見直そう
「公共」とは、誰かのためではなく、みんなのためにあるもの。
したがって、公共サービスの充実は、社会全体の“安心”と“持続可能性”を支える礎です。
政府の役割を問うことは、私たちがどんな社会をつくりたいのかを問うことにほかなりません。
“効率化”や“財源不足”の名のもとに、本当に大切なものが削られていないか——
いま一度、立ち止まって考えるときです。
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次回予告:通貨発行と「地域再生」──中央集権を超えて、地方は立ち上がれるか?
次回は、MMTの観点から「地方自治と地域再生」の可能性を掘り下げます。
- 地方交付税や地方債の構造はどうなっているのか?
- 通貨発行によって“地域の暮らし”をどう支えられるのか?
- 地方こそが、持続可能な経済の実験場になり得る?
衰退の危機にある地方が、“国家財政の縛り”を超えて自立していくための視点を探りたいと思います。
続く