通貨発行という視点が開く、希望の経済へ

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[シリーズ7回目 総まとめ]

通貨発行という視点が開く、希望の経済へ

通貨発行を「タブー」から「思考の起点」へ

本シリーズでは、日本における通貨発行をめぐる理解の齟齬を正しつつ、それがもたらす社会的・経済的可能性を段階的に考察してきた。

通貨発行とは単に「紙幣を刷る」ことではない。それは、国家という共同体が未来に向かって、信用を創造する行為である。

従来の「財源がないからできない」という思考停止を超えるためには、まず通貨とは何か、信用とは何かという根本の問いに立ち返る必要がある。

国家財政とプライマリーバランスの誤謬

シリーズ冒頭では、政府が家計と同じように「収入の範囲で支出を抑えるべき」という誤解に挑んだ。財政の本質は、信用の創出と管理にある。

プライマリーバランス黒字化という数値目標が、むしろ経済の健全な成長を阻害していること。通貨発行は「将来世代へのツケ」ではなく、今を支え未来を開くための制度的な知恵であることを論じた。

ベーシック・インカムと人間の尊厳

次に焦点を当てたのは「分配」の再設計である。

自動化・AI社会が進む中で、雇用中心の分配構造は限界を迎えている。通貨発行を活用したベーシック・インカム的施策は、人間を労働の歯車から解放し、「生きていてよい」という基礎的な肯定を社会全体で保障する試みである。

これは贅沢のための給付ではない。存在の尊厳に対する最低限の社会的合意である。

地域再生と信用経済の可能性

最終回では、国家から最も遠い「地域」の現場に視点を移した。

中央依存の構造に苦しむ地方が、自らの信用と関係性を基盤に経済圏を構築する可能性について考察した。地域通貨、互助的な経済圏、自治体による独自施策などはすでに動き始めている。

通貨発行の思想を「中央政府の特権」ではなく、「分散的な信用創造のネットワーク」として再構成することは、地域再生の鍵ともなる。

未来を拓く「思想としての通貨発行」

通貨発行は金融技術であると同時に、人間社会における「信頼」の制度化でもある。

本シリーズで繰り返し強調してきたのは、通貨とはモノではなく関係であり、国家の未来に対する「期待と責任」の象徴でもあるという点である。

その視点から見れば、通貨発行は恐れるべきリスクではなく、適切な民主的統制のもとで未来を拓くツールとなる。

まとめ ‖ 未来は「つくる」ものとして

本シリーズが目指したのは、通貨発行をめぐる一種の「脱魔術化(demystification)」である。理解すれば怖くない。正しく使えば大きな力となる。

いま求められているのは、数字に支配される思考ではなく、数字を使って人間を支える意思である。

経済とは、ただの金勘定ではない。人間の暮らし、命、希望を支える構造体である。
そして、その再構築は可能である――わたしたちが、それを信じるかぎりにおいて。


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第1版 2025/6/4